よりもい1話における「傘」というモチーフについての感想と考察と妄想

 

 

 よりもい13話全部の感想・考察・妄想を考えているところなんですが、とても面白くてハマっています。簡潔にまとめるのが下手で、下書きの時点で1話あたり1万字ペースなので終わりは見えませんが。1話で面白い考察を考えて、紹介したいと思ったので載せます。あくまで個人的な意見です。

 

 

 

雨というモチーフ

 

 キマリが「あてのない旅に出る」事を決心するが失敗するシーンで、雨が降り続いています。一般的なアニメにおいて雨は不安や不穏としてのモチーフであり、この1話の雨もそれに漏れなく、不安という意味で捉えることができると思います。

 

 靴というモチーフ

 

 キマリが学校をサボって旅に出る計画を、めぐっちゃんに話した時に、キマリは靴ひもを結んでいた。このことから分かるように、靴は旅に出る、ここじゃないどこかに踏み出す、という意味を持っていると考えられる。

 

 キマリが家を出発したときには、靴が水たまりを蹴っているから、キマリの「志」が不安に負けていないことが分かる。

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 しかし、ホームでの雨でびしょ濡れになった靴が描かれて、不安が大きくなって、キマリの計画は失敗に終わる。びしょ濡れの靴っていうのは、足取りが重くなる気分や、早く家に帰りたい気持ちなど、この時のキマリの気持ちの表現としてかなりしっくりくると感じました。  

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  ここまでのモチーフは「不安」と「期待」であり、意味は対立的で分かりやすいと思うんですが、3つ目のモチーフは少し分かりにくいと思いました。

 

 

傘というモチーフ

 

 傘は雨から身を守るものであり、靴が濡れてしまう事も防ぐことができます。だから一般的なアニメにおいては「不安からの救済」や「孤独からの脱却」等、ポジティブなモチーフであることが多いと思います。「一人ぼっちのキャラクターに傘を貸す。そうすると雨は止み、虹がかかった」なんてよくある感じですよね。しかし「よりもい」においては、話が変わってくる。

 

 キマリは傘を持って出掛けた。理由は雨に濡れたくなかったからです。雨が染み込んだスニーカーが表すように、雨に濡れることは不安のイメージであり、それで一歩踏み出すことを諦めてしまうのが嫌だったから、キマリは傘を持って出掛けた。ここまでは典型的なモチーフの意味です。

 

 しかし、このシーンでキマリが長傘を差しているのは不自然だと思います。目的地が京都か沖縄か北海道かは分かりませんが、旅先で雨が降っていなかった時に、長傘を持ったまま過ごすのって嫌ですよね。だからキマリは旅の事なんて考えていなくて、旅に出る前の不安をいかに感じずに済むかを考えて、優先したと言えます。さらに言えば、キマリは自分が直前で怖くなって諦めることを予想していたから、長傘を持って行った可能性もあると思います。

 

 いずれにしろ、表向きでは不安から身を守るための傘というモチーフに、キマリの諦めという真逆の意味を持った長傘のモチーフが隠れていると考えます。そして、いくら表面上は「あてのない旅に出る」と言っていても、その裏には諦めがあると思います。

 

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 だから、傘の先端から雨の滴がぽたぽたと靴に染み込んでいく画になるわけなんです。靴がぐしょぐしょになるカットに意図を乗せるためとはいえ、自分の傘から落ちる水滴を自分の靴で受け止めるって普通なら気が付くだろうし、不自然だと思います。しかし、傘のモチーフを考慮に入れると、「不安」が「表面的には見えない諦め」を伝って「張りぼての意志」を侵食していく、というキマリの心情を含意していることが分かり、ストンと腑に落ちると思います。 

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 このように書くと、キマリが諦めている事に対して批判的に見えますが、そうではないです。キマリだけでなく学校にいる生徒のほとんどが、同様に思っていて「それが普通」だと思います。だから、諦めた後のキマリの長傘が他の生徒の長傘と並んでいるカットがあるわけです。「一歩踏み出す事が怖くて、嫌だから、非日常を諦めて日常にくすぶる」のがキマリだけでなくて、メグっちゃんを含めてみんな同じだから、みんな長傘を使っているから、学校は安心できるわけなんです。

 そしてこれが、メグっちゃんが学校に休むという連絡を入れたのにも関わらず、キマリが学校に戻ってきている理由の一つだと考えます。

 

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 ただし学校で一人だけこれに当てはまらない生徒がいます。それが小淵沢報瀬。なぜなら、報瀬は「折り畳み傘」を持っているからです。そしてこれが旅に持っていく傘としての「正解」です。

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 一般的に折り畳み傘は長傘に比べると、雨を防ぎにくく、靴だって雨に濡れやすい。けれど旅に出た後を考えれば正しいのは折り畳み傘です。それを選ばなかったキマリは少しでも濡れたくないという不安な思いに勝てなかった。一方で、報瀬は旅の前の不安に耐えてでも、旅に出た後の事を考えていることが分かる。そして報瀬のそのスタンスがこの後描かれていく。

  私も「長傘を持ってたからって、旅を諦めていると断言はできない」と思っていたのですが、キマリが長傘を持って行ったのと同じ日に、報瀬が折り畳み傘を持っていて、100万円がメインであるカットでわざわざ描いているっていうのは決定的だと考えています。

 

 

 

 折り畳み傘は、キマリと報瀬が初めてすれ違うシーンで分かるんですが、この時点でキマリに足りない、また、他の生徒が持っていないものを、報瀬が持っているという事がこの画から分かってしまうんです。

  そして「折り畳み傘」を持っている報瀬が、日常から離れた場所を考えている事、一歩踏み出す前の不安にさらされても厭わない事、みんなと一緒ではないこと、たとえ不安でも進み続ける自信がある事、旅することに本気であること、そして諦めない事が予想出来てしまうんですよね。この後ろ姿だけで。報瀬は何も話していないどころか、顔さえ映されていないのにも関わらず。

 

 

 まとめ

 作った側がここまで考えているかは分かりませんが、意図している可能性があると思うんですよね。少なくとも報瀬が折り畳み傘を持っているわけですから。実際にここまで作りこんでいたら、やばくないですか?1話始まって10分も経ってないのにこれですよ。レベルが違い過ぎませんか?「よりもい」、強すぎませんか?

 よりもいはこんなに素晴らしいアニメなので、多くの方に、ぜひともBlu-rayやDVDの購入して、繰り返し見て欲しいなと思います。

  

 最後まで読んでくださった方がいたら、ありがとうございました。